episode お盆の出来事
お盆に長男がきた。
弟とはギクシャクしてて、2泊したうち1日は、弟が友達の家に泊まりに行った。2人はほとんど話してないと思う。
妹とは映画見たりしながら、なんとなく一緒に過ごしてた。
今まで通りのような、でも、明らかに違ってしまった気がする。彼はどう感じたんだろう。
長男は、来て早々自分の持ち物を集めようとしていた。
「なんでそんなことするの?来たばっかりなのに」
心臓がドキドキしだしてる。やばい。余計なこと言いそう。
「そんなことないよ。」
て、答えるしかない。ドキドキも止まらないし頭がパニクってきた。
「お父さんに何言われてる?弟を連れて来いって?」
あーもうダメだ、言ってしまった。なんで穏やかに過ごせないんだろう。
長男の顔が怒ってる。
「なんでお父さんのことばっかり言うの?
二度と来ないからな!」
バシッと言われた。こんなに強く言うなんて。泣きそう。でも、私も逃げられない。
「だって、、それだけお父さんが裏で動いてるからだよ。あんたの言葉の裏にお父さんが見えるからだよ。それが嫌って分かってるけど、
それだけ裏でチラチラ動いてるってことだよ。」一気に言った。
「それにお母さん、まだ全然良くなってないんだより病気なの忘れた?」
お鍋の煮物を温める。
「病気、病気って、病気のせいにばっかりするなよ。」
出た!これ、病気の理解がない人が言うやつ。
「だって病気なんだもん。しんどいよ。
でも、喧嘩しに来たんじゃないでしょう?
仲良くしよう。
お腹すいてるんだからご飯食べて。」
煮物をよそって長男の前に置いた。
「うん、だから食べようとしてる。
お母さんが余計なことを言うからだよ。」
「ごめん、でも、ほんとにしんどいの。何も良くなってないんだよ。それは分かって。」
「うん。」
「ご飯も、ほら、お肉も食べるでしょう?」
「なんでも食べるよ。」
心臓がドキドキして、涙が出そうだった。
やっぱり無理だ。こんな話し方するんだ。
この圧力感、「二度と来ないからな!」なんて、旦那そっくり。少しの間に。
もう来ない、じゃなくて、二度と来ない。
「もう」と、「二度と」の間にはかなりの隔たり、断絶がある。
「もう」なら、まだ可能性がある。
溝があって、でもなんとか越えられそうに思う。頑張ったら飛べる感じ。落ちてもまたやり直せそう。
でも、「二度と」なら、そこには深い渓谷があって、簡単には越えられない。
インディージョーンズなら、馬を駆って一気に飛び越せる?おんぼろのジープをアクセル全開にして飛べる?
無理だよ。落ちたら真っ暗な渓谷へ真っ逆さま、絶対助からない。
「もう」と「二度と」にはそれくらいの隔たりがある。
それは、私と長男との間の、深い深い渓谷。
いつの間にか出来てしまった心の断絶。
あの子は私が産んだ子だ。
数ヶ月前まで一緒に暮らしてた。
1番しんどい時に支えてくれた。
私のことを1番に考えてた子。
それを忘れてはいけない。
相手の罠に落ちてはいけない。
私たちを仲良くさせまいとしてる。
負けるな。信じよう。
そう思い直して、長男の隣の布団で寝た。
あの人と一緒に寝た時の重圧感、如何ともし難い、テコでも動かない、そんな感じも思い出していた。